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岡目八目

河合泰男氏サッカーコラム   岡目八目  河合泰男
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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.14+15+16

            もうひとつの『負けられない戦い』(1)

 

 2015年もJリーグが開幕いたしました。我FC東京は開幕から連続して2引き分けと、
調子が良いのか悪いのか判然としないスタートを切っています。どちらなのでしょうか?

 日本代表もハビル・アギーレ前監督に代わり、バヒド・ハリルホジッチ監督になり、
これからどんなチームになっていくのか楽しみではあります。
早速、3月31日の味スタでのウズベキスタン戦を観戦してくることにいたしました。
(最近では、代表戦のチケットもなかなか入手が難しいですね)

 

 昨年のワールドカップ・ブラジル大会で日本は期待はずれでしたが、
やはり準決勝・決勝戦などを見ると「これが世界の最高峰」という印象がありました。

 ところで今年3月12日に、日本ではあまり話題にもならなかったのですが、
ワールドカップ・ロシア大会アジア1次予選がすでに始まっています。
1次予選の出場国は下記の錚々たる(?)12ケ国です。

  (1)ブルネイ

  (2)カンボジア

  (3)チャイニーズタイペイ

  (4)インド

  (5)マカオ

  (6)モンゴル

  (7)ネパール

  (8)パキスタン

  (9)スリランカ

  (10)東ティモール

  (11)イエメン

  (12)ブータン

 

2月10日に行われた組合せ抽選会の結果、下記のような組み合わせとなり、
それぞれ
ホーム&アウエーでの勝者が日本も参加する2次予選への進出となります。

インド 対 ネパール

イエメン 対 パキスタン

東ティモール 対 モンゴル

カンボジア 対 マカオ

チャイニーズタイペイ 対 ブルネイ

スリランカ 対 ブータン

 

この中で、FIFAランク209位(最下位)を独走するブータンが、同174位、格上のスリランカにアウエーで1対0で勝ったのです。
もっともブータンにとって格下のチームはなく、すべてが格上ではありますが・・・。
また、ブータンはワールドカップ予選に初参加であり、
国際試合で勝つのは2008年にアフガニスタンを倒して以来、実に7年振りになるそうです。

報道によっては「珍事」とか「奇跡」という見出しもありましたが、これは「快挙」と言っていいでしょう。


 この間、何試合負け続けていたのか興味が湧きます。報道では18連敗とも19連敗ともありどちらが正しいのか判りませんが、
日本であればファンもマスコミも大騒ぎになっていたことは間違いないでしょうね。

 

試合後にはケンタッキーフライドチキンで祝勝会をしたとか、ほほえましい話も伝わっています。

 

 FIFAランク1位のドイツから、ずっと遠いところでの「負けられない戦い」にも注目してみると
サッカーのまた別の面白さにも気づくかもしれませんよ。

 

 さらにブータンは、17日にホームで行われた第2戦も2-1で連勝し見事に2次予選への進出を決めました。
CLやACL、ナビスコ杯などの陰になってしまいほとんど話題に出てこなかったのですが、
正にブータンサッカー始まって以来の歴史的快挙です。
2次予選でのブータンからも目が離せませんね。
抽選結果では日本や韓国と同組になる可能性もあります。
注目の2次予選の組合せ抽選会は4月14日にクアラルンプールのAFC本部で行われます。

 もっと興味深いこともわかりました。ブータンの監督は何と日本人だということです。
資料により現在の監督が異なっていますが、下記のように数代前から代々日本人が監督を務めているようです。
(続報では正確な情報がお伝えできるかと思います)

まさかこのような所で日本人が活躍していたとは、驚嘆に値しませんか? 

 行徳 浩二 氏 (2008-2010)

 松山 博明 氏 (2010-2012)

 小原 一典 氏 (2012-2015?)

 築館 範男 氏 (2015?- )

 

 

 因みに、他の1次予選結果も記しておきます。(2試合通算得点)

 

インド 2-0 ネパール

※イエメン 3–1 パキスタン(1試合目の結果。現地治安情勢不安の為、2試合目延期)

東ティモール 5-1 モンゴル

カンボジア 4-1 マカオ

チャイニーズタイペイ 2-1 ブルネイ

スリランカ 1-3 ブータン

===以下、次報に続く===
2015.3.24

もうひとつの『負けられない戦い』(2)


まずはブータンの監督についての情報からお伝えいたします。


今年の1月までは小原一典氏が務め、3月12日と17日の1次予選はブータン人コーチが指揮を執ったようです。 
3月20日、ブータン・サッカー協会は築館範男氏の監督就任を正式に発表し、2
次予選から指揮を執るとのことです。

築館範男氏

上の写真をよく見ると、ビブスにマジックで「4」と手書きされているのが、かすかに確認できます。

この辺からもブータン・サッカーの現状が垣間見えてくるのではありませんか? 
経済情勢が日本
代表とは格段に違うのではないでしょうか。
練習環境も雲泥の差なのでしょうねぇ・・・。


多くの人にとって「自分がスタンダード」と考えてしまいがちですが、それは一人一人の
それま
での経験・体験によって人生の基準が成立するのですから、ある意味仕方のないことかもしれません。
しかし、世の中には我々の予想外の世界も多く存在することに気づくのではないでしょうか
?

まだまだ恵まれない環境の中でもサッカーに情熱を燃やしている人達も大勢いるのです。

戦乱の中でも頑張っている人々もいます。

いまだにベトナム戦争時の不発弾が数万発存在するというラオスのユースチームが、
逆境にも負けず国際大会でベスト4になった話などを聞くと、何故か嬉
しくなってしまいます。
こんな気持ちは「判官贔屓」という言い古された言葉だけでは言い表せない
ような気がするのですが・・・。


4月9日にFIFAは最新ランキングを発表いたしました。
1次予選の2連勝でブータンは209位から
163位と何と46位も跳ね上がりました。大躍進ですね。
その結果、最下位の209位にはイギリス領
アンギラがランクされてしまいました。
イギリス領アンギラの奮起を期待したいですね。
因みに3月
にチュニジアとウズベキスタンに勝った日本は、53位から50位にわずかですが上がっています
40位のイランに次いでアジア2位をキープです。


さて、本題の2次予選の組合せ抽選会は4月14日、アジア・サッカー連盟(AFC)本部のあるマレーシアのクアラルンプールのJWマリオットホテルで行われました。
2次予選は40チームを5チーム
ずつ8組に分けてホーム&アウエーの総当たりで行われます。
各組1位の8チームと、2位の8チー
ムの中で成績上位4チーム、計12チームが2017年3月からの最終予選に進むことができます。


抽選結果で、日本代表がE組で
シリア(FIFAランク126位)、アフガニスタン(同135位)、シンガポー
ル(同162位)、カンボジア(同179位)
と同組になったことは、皆さんご存知のことでしょう。
順当にい

けば、最終予選進出は問題ないかと思えます。
抽選会後のハリルホジッチ監督のコメントは
「良い
グループに入ったと思います。ただ対戦相手についてはまだ詳しくは分かりません。
前もって勝て
るという保証はないので、各試合しっかり準備をして、ホームでもアウエーでも勝つ努力をしたいと思います。

私の口にはいつも勝利という言葉が存在します。特にアウエーではかなり自信をもって臨まないといけません。
全ての試合においてかなり厳しい要求をしていきたいと思います」


このコラム注目のブータンは中国(同82位)、カタール(同99位)、モルディブ(同141位)、香港(同167位)とともにC組となっています。
中国、カタールあたりが1位2位争いかと思われますが、
勢い
に乗っているブータンが築館範男新監督の元、どこまで健闘できるかこの後も注視していきたいと思います。

2015.4.20
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サッカーあれこれ -16

 もうひとつの『負けられない戦い』(3)

 

 いよいよワールドカップ・ロシア大会に向けたアジア2次予選がはじまりました。

6月16日には、日本はシンガポールにまさかまさかのスコアレス・ドローと、大変ショッキングなスタートとなりました。FIFAランク154位の完全格下の相手でしたから、大方の見方では日本が勝つのは当たり前、どれだけゴールを決められるのかに関心があったのではないでしょうか?

シンガポールは4-1-4-1のフォーメーションとのことでしたが、テレビ画面で見る限り、4バックの前に5人でラインができていました。4-5-1と言っていいほど、完全な守備的布陣でした。日本代表は、アジアでの引いて守られる試合に未だに解決策が見いだせないようです。

自慢の(?)「1タッチ・2タッチで前へ早く」もどこかへ行ってしまったようでした。

 

さて、本題のブータンはというと、最新の6月4日付FIFAランキングで、ブータン・サッカー界史上最高の159位まで上がっていましたが、6月11日にアウエーでの香港との初戦は0-7と大敗してしまいました。続く16日のホームの中国戦でも0-6の完敗です。

やはり、ブータンにとってアジアの壁は相当に厚いようです。9月3日のカタール戦はより苦戦を強いられそうですが、10月8日は178位の格下モルディブ戦ですから、これは期待できるのではないかと思います。

 

現時点でのC組順位表です。

順位

チーム

勝点

1

香港

2

2

0

0

9

0

9

6

2

中国

1

1

0

0

6

0

6

3

3

カタール

1

1

0

0

1

0

1

3

4

モルディブ

2

0

0

2

0

3

-3

0

5

ブータン

2

0

0

2

0

13

-13

0

 

2試合終わって、得点0、失点13は厳しいですね。インターネットでも記事にならなくなってきました。やはり、209位だから話題性もあったのでしょうか? 中途半端な順位では取り上げてもらえないのでしょうか?

  

 ところがこれに先立ち、6月11日の夕方の民放テレビ局で、ブータンのサッカー事情をわずかですが特集していました。ご覧になられた方もいらっしゃるかもしれませんが、少し紹介しておきます。

 日本サッカー協会から物資の面、技術の面で多大な支援を受けているそうです。以前ご紹介した監督の築館範男氏も、もちろん日本人です。ブータンとしては、ずいぶん日本に感謝しているそうです。

先日、タイのプロリーグの2部に所属するタイ・ホンダFCと強化試合を行い、1-10で大敗してしまいました。築館監督に言わせると、ブータンの選手の欠点は「優しさ」だそうです。「何が何でも勝とう」という意気込みがないようです。人間性としては、ある意味美徳のようですが、勝負の世界では往々にしてマイナスに作用する性格なのですね。

YOU TUBEにブータン対中国の動画がありました。

 http://soccer-douga.com/douga/20592/


2015.6.22

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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.13

 

                  W杯での小さな驚き

 

4年に一度、寝不足と体調不良に悩まされる一か月が終わりました。なんとも疲れましたね。皆さまはいかがお過ごしでしょうか?

 

 日本がグループ・リーグを突破できなかったことは残念でしたが、1998年のフランス大会以来、突破と敗退を交互に繰り返す法則(?)からすれば、その通りになってしまったようです。

各チーム・選手の出来不出来につきましては今更申し上げることもございません。スペインがあまりにもあっさりとグループステージで敗退してしまったことが驚きと言えば驚きでした。とはいえワールドカップには魔物が住んでいるのですから、何があっても不思議ではないようです。

 

試合結果以外でも、いくつか驚いたことがあります。

まずゴール・ライン・テクノロジー(GLT)は予想以上に効果を発揮し、一生懸命にやっている選手にも安心感を与えていたのではないでしょうか? また審判にとっても、判定のサポート役として活躍してくれたように見えました。そのせいか、ゴールの判定を巡るトラブルはなかったようです。
GLineTech 

↑ゴール・ライン・テクノロジー(白い線がゴール・ライン。ボールがラインを越えてゴールの判定)

 

 次にFKの時にボールと壁の位置にスプレーでラインを引くのにはびっくりしました。昨年のクラブ・ワールドカップから使用されているとのことですが、それを見ていないので、開幕戦で西村主審がいきなりスプレーした時は何事が起きたのか理解できませんでした。「バニシング・スプレー」と言うそうですね。1分程度で消える泡のスプレーと聞いて納得できました。成分は水とブタンと界面活性剤だということです。歴史的には1980年代にボビー・チャールトンが所属するイングランドの会社が開発したそうですが、その当時FAはこのアイデアを拒絶したようです。伝統に固執するイングランドらしい逸話ではあります。

 今までFKの時の壁の位置は主審が指示しても、主審がそこを離れるとジワジワ前へ出てくることが多く、それを修正するのに時間がかかっていました。見ていても気持ちの良いものではありませんでした。バニシング・スプレーで視覚的に確認できるラインを引かれると、やはり人間の心理として前へ出にくいのでしょうか? とてもスムーズにFKが蹴られていました。これも良い驚きでした。

 下の写真は、開幕戦で西村主審がスプレーしている様子です。ビックリしました。
バニシングスプレー 

 しかし、さらに驚いたことがあります。

選手が着用するスパイクの新種(?)です。今年の3月にあるメーカーから発表されたブーツ型のスパイクです。ディテールの多少異なる2タイプがありました。見た目には赤と黄色で区別できます。(発売は5月からとのことでしたが・・・)

 サッカーのスパイクでブーツ型など、今まで誰が考えたでしょうか? 発表された時、そのデザインを見て、私の第一印象は「何と不格好なのだろう。しかも走り難く、蹴り難くそうだ」でした。「多分、普及しないだろう」とも思いました。

 ところが今回のワールドカップで、このブーツ型スパイクを着用している選手の多いこと!! 日本でも二選手が着用していました。
Boots?  ←ブーツ型スパイク

あまりにも目に付くので、物好きにも数えてみました。いざ意識して調べ始めると、これが意外と難しい作業でした。テレビのメインカメラの画像では、色は判ってもブーツ型かどうかまでは判然としません。FKの時か怪我で倒れている時など、選手の足元までアップに映し出される一瞬しか確認のタイミングはありません。したがって何度もビデオを見たり、足元まで写っている写真を探したりと予想以上に大変な作業でしたが、途中で止める気にもならず、全チームを確認しました。

しかも選手によっては試合ごと、または前後半で履き替える選手もいるようで結局全試合の前後半すべてをチェックしなければなりませんでした。

登録された選手は32チームの23人ずつで736人ですが、ずっとベンチにおりテレビにも写真にも映らず、映ってもスパイクが見えなかったり、スパイクは見えても選手名が確認できなかったものを除くと、おおよそ560人前後の選手の足元をずっと追い求めたことになります。その結果、確実にブーツ型と判断できたのは、赤が68人、黄色が48人、合計116人でした。ただし、クロアチアの選手で試合により赤と黄色を履き分けていたので、実質115人ということになります。これは何と20%にもなります。5人に1人はブーツ型スパイクを履いていることになりますね。

 ポジション別にはGKからFWまでほぼ同じように見られましたから、どのポジションに向いているということはなさそうです。あくまで選手個人の好みなのでしょうが、こんなに使用者が多いとは考えもしませんでした。

開発者としてはコペルニクス的発想だったのでしょうか? 発表当初「ソックスのような」とか「足とボールが近くなる」などと形容されていましたが、どんな感触なのでしょうね? もし既に使用された方がおられましたらお教えいただきたいものです。

 

 因みに「この大会で最も多くのゴールを挙げたスパイク」という調査もありました。記事をご覧になった方もおられるかもしれません。別のメーカーのとあるスパイクでしたが、私より物好きな方もいることに、一番驚かされました。

(追記)

お気づきの方もおられたかと思いますが、左右色違い(:ブルー、右:ピンク)のスパイクも目立ちましたね。ついでにこれも数えてみました。41人が確認できました。
2014.7.16
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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.12

           ホイッスル・・・審判員のこだわり

話はいきなり脱線してしまいますが、今年の2月に開催されたソチでの冬季オリンピックでのことです。(まだ二ヶ月前のことなのですが、ずいぶん昔のことのような気がいたします)

テレビでスキーやスノーボードの競技を見ていると、解説の方が「ワックスが合っている」とか「合っていない」と表現するのを度々耳にしました。

そこで、少々ワックスについて調べてみました。ドイツやノルウェー、スイスなど、云わばスキーの本場のメーカーに混じり、日本の仙台市に本社を置く()ガリウムというメーカーも人気が高いことを知りました。どのワックスを使うかは各チームの極秘事項のようで、なかなか明確なデータはありませんが、ガリウムを使うチームも多いようです。

 

さて本題に入ります。

私は一昨年、当協会に入会させていただきましたが、なかなか審判の世界というものが理解できませんでした。ある時、ふと思い出したのが、毎回ワールドカップが近づくとテレビで紹介されている、野田鶴声社のホイッスルのことでした。(6月のブラジル大会前にも紹介されるかもしれません) 私にはまったく馴染みのない会社名でしたが、レフェリーの方にはお馴染みなのでしょうね。

現在は葛飾区亀有に会社があるようです。前述のガリウムと共通しているのは、どちらも大企業ではないということです。そして両社とも日本人の物作りへの情熱とかこだわりを遺憾なく発揮し、世界に通用する物を生み出しています。これは素晴らしいことではないでしょうか? 日本チームが好成績を上げるのも嬉しいですが、日本の用具メーカーが評価されることも価値あることだと思います。

 

そこで、「これを吹いてみたら、少し審判気分に浸れるかもしれない」と私は(浅はかにも)考えました。(結果的には難しさを思い知らされましたが・・・)

調べてみるといくつかの種類がありましたが、最初の一つ目は高田静夫氏に所縁のある「MEXICO86」の刻印のあるホイッスルにすることにしました。通販でやっと入手できましたが、プレミアが付いて定価よりずいぶん高い買い物になりました。とはいえ、まず見た目の美しさに驚きました。フォルムといい、仕上げの丁寧さは精巧な美術工芸品の域に達しているのではないでしょうか? それだけでも評価に値します。しばし見とれてしまいました。
野田鶴声社

購入前、プロが使うホイッスルだから大観衆の中でもよく通る大きな音が簡単に出るものとの考えがおりました。ところが口にして直ぐに、とんでもない誤解だったことに気づかされました。ワクワクしてまず一回吹いてみました。しかし、「・・・?」空気が漏れるような音しかしません。相当勢いよく吹かないと、大きな音が出ません。まるで予想と反対のことが起きてしまいました。不良品だったのでしょうか? むしろ災害用にもらった安物のホイッスルの方が、簡単に大きな音が出るように思われます。

これが不良品ではなかったら、大歓声の中でも聞こえるように吹くには、並外れた肺活量が必要になるでしょう。しかも、選手と同じように走り回って、息が切れた状況でも吹かなくてはならないことを考えると、要求される心肺機能は相当なもののはずです。驚嘆するとともに、なぜこのように難しいホイッスルをわざわざ選び、そして使うのか、新たな疑問が生まれました。

 

 ある時、この疑問について、高田静夫氏に直接伺う機会がありました。「私は金属はダメです。メキシコ大会で記念にもらいましたが、しまってあります。こんな刻印はなかったです。私はプラスチック製を愛用しています。金属は岡田正義氏が専門ですから、その道の専門家にお聞きするとよいでしょう」とのアドバイスをいただきました。なるほど、当然ながらレフェリー全員が野田鶴声社製の金属製ホイッスを使用しているわけではないことも知りました。個人の「好み」というのがあるのですね。

 

その岡田正義氏のお話によると「これを吹くにはコツと言うか、呼気が要ります。慣れると大丈夫です。これに慣れるとプラスチックでは逆に音が大きくなってしまいます」とのことでした。やはり大きな肺活量が必要なようです。お隣におられた長坂会長が実際に吹いてくださいましたが、実に簡単に大きな音が出ました。「コツ」なのでしょうね。私にはまるで難しい楽器のように感じられました。

因みにこの時の音が大き過ぎたので、お店の方から「他のお客様が驚くので・・・」とクレームがきました。上手く吹くと、それくらい大きな音が出るわけです。

尚、後日、ウィキペディアの「野田鶴声社」の項に「近年では1998年ワールドカップ・フランス大会での唯一の日本人審判である岡田正義が使用したことでも報道された。」との一文があることを発見しましたから、正にこの疑問にお答えいただくには最適任者だったわけです。

 

 さらに当協会の植村副理事長から「中のコルクを水で濡らすと、音色が変わります」と興味深いお話を伺いました。早速、帰宅後試してみました。より高音のきれいな音になったように感じました。皆さんそれぞれにこだわりを持っておられるのですね。私もホイッスル・コレクターになりそうです。

 

 一般のサッカーファンから見ると、イエローカードやレッドカードがレフェリーのシンボルのように思っていましたが、主審を務めることを「笛を吹く」といい表現しますから、ホイッスルこそがその象徴なのでしょう。だからこそ、それにこだわることも素敵なことだと思います。ネックストラップを首からぶら下げるのではなく、あえて手首に巻く姿が格好良く見えるようになりました。
2014.4.20


 
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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.11

                  シミュレーション

・・・ブラッターの怒り・・・

2013年12月5日、UEFAのプラティニ会長がスペイン紙に対し、興味深い発言をしました。
イエローカードの制度を廃止し、ラグビーのシン・ビン制(注-1)を導入するという提案でした。
「警告のシステムを変えたい。ラグビーのように、ファウルを犯した選手が10分から15分ほど一時退場となる形がよいと思う。そうすれば、対戦相手はその試合中にアドバンテージを得るし、別の対戦相手との試合で累積警告により出場停止ということがなくなる。まだ構想段階にすぎないが、競技の利益となるかどうか、今後検討していく必要がある」との内容です。
 確かにイエローカードを1枚もらっても、相手チームには目に見えて得するものはないですね。プラティニの発言が実現すれば、現在のサッカーに大きな変化をもたらす画期的なものです。
 しかし、この提案についてFIFAのブラッター会長は「レギュレーションがすべて確立されているというのに、なぜシステムを変更しなくてはならないのか理解できない」と反論しました。この話はこれで終わりかと思われました。

2014年、ワールドカップ・イヤーが始まったばかりの1月3日、「FIFAウイークリー」でブラッター会長のコメントが公表されました。最近、(特にイングランドのプレミアリーグで)問題となっているシミュレーションに関しての苦言でした。マンチェスター・ユナイテッドのアドナン・ヤヌザイやアシュリー・ヤング、リバプールのルイス・スアレス、チェルシーのオスカルなど、今季になってシミュレーションで話題になる選手が相次いでいました。

 ブラッター会長はコメントで「だますことをやめるのは、対戦相手とファンに対する敬意であり、さらにはプロとして、模範としての自分への敬意でもある。ほかのスポーツでは軽蔑されるが、最近のサッカーでは普通のことになり、受け入れられてしまっている。信じられないほどにアンフェアであり、映像で見ればバカげたものであるにもかかわらず、ずる賢いとか、ひどければささいなことだと考える人もいる。これは、PKをもらうためにペナルティーエリア内で大げさなダイブをすることも含まれる。私は非常に苛立つんだ。特に、半分死んだ(かに見える)選手が、ピッチを離れてすぐに生き返るのを見るとね。タッチラインには、医療専門家ですら説明できない再生力を持っているかのようだ」と述べています。
日本人には真似できない、ウイットのきいた上手い表現でシミュレーションをする選手を皮肉っていますね。確かにJリーグの試合でも、このようなシーンを見かけることが増えているのではないでしょうか?

 最近のシミュレーションについての発言を、いくつか拾ってみましょう。

①2013年10月6日、チェルシーのモウリーニョ監督がシミュレーションについて語ったことを『GOAL』が伝えています。
「私はダイブが大嫌いだ。私のチームの選手たちは、ダイブをすれば私との間で大きな問題を抱えることになると分かっている。非常に良くないことだ。相手選手にレッドカードを出させようとするのは、私にとっては恥ずべきことだ。自分のチームの選手が正しくない行動を取ったおかげで勝てたと感じるような試合がいつかあったとすれば、私はその選手を強く批判するだろう」
何かと問題発言の多いモウリーニョ監督ですが、この件についてはとてもまともな見解を持っているようですね。さらに続けています。
「サッカー界の上層部が何とかしなければならない。私は何者でもない。ただ意見を述べているだけだ。何も対処されなければ、来週にはまた同じことをする選手がいるだろう。ボルシア・ドルトムントのユルゲン・クロップ監督は主審だか第四審判だかと話をして2試合の処分を受けた。だがネイマールは? バロテッリは? 優先順位の問題だ。勝つか負けるかの問題ではなく、文化を維持するのか、文化が変化するのを許すのかの問題だ。私はダイブをした選手を外したことはないが、いつも強く批判的な姿勢を取ってきた。(ディディエ・)ドログバや(アリエン・)ロッベンとも過去に話をした」
実に優等生的・紳士的な姿勢を感じます。

②2013年10月8日付の『GOAL』では、このように記載されています。
「かつてバルセロナに在籍した元ブラジル代表DFエジミウソン氏が、同クラブFWネイマールのダイビングについて言及している。『ネイマールはブラジルでダイブを繰り返していた。まだ、ブラジルでの癖が残っているのだろう。だけど、そのようなプレーの大半は、DFのタックルが遅れることで起こるんだ。ネイマールはいつも打撃を加えられている。だからDFと対立するんだ。モウリーニョの言葉について、質問されることは分かっていた。彼は(FWリオネル・)メッシもテアトロ(芝居、演劇)を行うと言っていたね。ただネイマールやメッシは選手としては小さく、DFはマークを外した時にファウルで止めようと試みるんだ』」
小柄な選手にとって、故意ではなく、ダイブをすることもやむを得ない状況というのもあるのかもしれません。

③2013年12月29日のプレミアリーグ第19節チェルシー対リバプール戦後、モウリーニョ監督はリバプールのL・スアレスのダイブ癖について語っています。
「アスピリクエタがボールを奪い去り、L・スアレスはプールにアクロバットな飛び込みをした。(主審のハワード・)ウェブは10メートルほどしか離れていなかった。彼の唯一のミスは、イエローカードを出さなかったことだ」
これに対し、リバプールのロジャース監督は次のように反論しています。
「試合を見ていた人なら誰でも、ダイブではなかったと言うだろう。ルイスは簡単にターゲットにされていないかい? 私は、ボールに行っていない選手のプレーに対する正当なPKの主張だったと思う。アクロバティックなダイブじゃなかったことは確かだ。誰もが最終決定を見ることができる。そこに深く首を突っ込みたくはない。試合は終わったんだ。今はもう、そこから何も得ることはない」

さらにブラッター会長は、このようなシミュレーションに対するペナルティーとして、一ヶ月前には否定的だった、ラグビーにおけるシン・ビン制の導入も選択肢の一つとして考えているようです。
「この件に関する指示は明確だ。選手がピッチに倒れても、相手チームはボールを外に出すことを要求されない。介入すべきは、主審が深刻なケガだと考えた場合のみだ。倒れていた選手が、ピッチを離れてすぐにプレーに戻ろうとしたら、主審は数的不利が試合に影響するまで、その選手を待たせることができる。実質的には、これは一時的なペナルティーとなる。それにより、シミュレーションをする選手たちが考え直すかもしれない」

 ブラッター会長がこの一ヶ月で、なぜ考えを一転させたのかは不明です。シミュレーションは無罪の相手に罪を押し付けるわけであり、人間として道義的にも許されないことです。シン・ビン制はともあれ、これから具体的な対策が考案されるならば、このような背景の中でのブラッター会長の発言は、現代サッカーの一つの汚点とも思えるシミュレーション問題に一石を投じたのではないでしょうか? プラティニ会長の提案も無駄にはならなかったようです。続報を期待して待ちたいものです。

  (注-1)「シン・ビン制」 :  《罪の箱の意》ラグビーで、反則や危険行為を行った選手に課せられる10分間の一時的退出。1試合に二度受けると退場処分になる。日本では平成8年(1996)から採用。

2014.1.13
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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.10

 

               『人間的なサッカーの再建』

 2013129日付けのインテルのホームページで、ちょっといい話を見つけました。

かいつまんでご紹介いたします。

 

 イタリアはローマのモンテチトーリオ宮殿で9日、「人間的なサッカーの再建を目指して・暴力に対抗」というテーマの会議がありました。議会保安委員のステーファノ・ダンブルオーゾ、州事務大臣のグラツィアーノ・デルリーオ、国家警察副司令官アレッサンドロ・マランゴーニ、文化・科学・教育委員会のアントニオ・パルミエーリ、さらには「コリエーレ・デッロ・スポルト」紙の編集長ステーファノ・バリジェッリの各氏が参加したとのことです。私は誰も知らないのですが、イタリアでは著名な方々のようです。

 インテルからはマッシモ・モラッテイ名誉会長とキャプテンのハビエル・サネッティが出席しています。
okamehachimoku

   急いでこの会議の記事が他にも無いかネット上で探したのですが、残念ながら見つかりませんでした。会議の全体が見えにくく、インテルからの二名の出席者に偏った内容ではありますが、それでも現在のサッカーをやる者・見る者にとっては考えさせられるいい話です。

 

 まず、試合の勝敗とは関係なくハードワークする(一生懸命プレーする)意識の重要性を聞かれ、サネッティはこう応えています。

「僕の場合、ハードワークを重視するという考えは両親の手本を見ながら身に付いたのです。左官の仕事をやっていた父と、他界した母は子供の僕らにちゃんとした生活を保証するためにすごく献身して働き続けたのです。毎朝6時に起きて夜6時に帰宅する姿を見続けた僕は、様々なことを学びました。当時のことはその後、サッカー選手としてだけでなく、ひとりの人間としての僕の日常生活で大いに生き続けているのです。試合に勝っても負けても、一番の薬はハードワークなのです。

暴力問題はその国の文化や環境、教育システムから来るものだと思っています。僕らはみんなで力を合わせて、サッカーという素晴らしいものをぶち壊そうとしている人たちに対抗していくべきだと思います」

何とも味わい深い言葉ではないでしょうか? その国の文化や環境、教育システムは我々国民一人一人が作っているものです。皆が自分のこととして、もう一度考えてみる必要があるのではないてしょうか。

 

会議の席上、サネッティの伝記“Giocare da uomo/人間らしいプレー”が紹介されたようです。

この本は今年の1014日にイタリア国内で販売開始されていますが、日本語版はまだ発売されていないようです。発売されたら即、読んでみようと思います。

 

 モラッテイ名誉会長の談話も紹介されています。

「ファンをリスペクトしながらも、クラブとして勇気を持つことが大事です。例えば人種差別問題に対しても、できる限りの手段を使って戦っていくことが必要です。なお、ハビエル(・サネッティ)のチャリティー財団やインテルチャンネルのような組織の活動を通じて効果を狙うことも重要です。サッカーは誰もが注目するものですから、そのサッカーを通じていろいろと進めていくことが大事ですね」

 

余談ですが、インテルは今年5月末からその買収について報道されていましたが、1115日の株主総会において正式にインドネシアの実業家エリック・トヒル氏が新しいオーナーで会長に就任しました。長年に渡りインテルとイタリアサッカーに貢献し、122日にイタリアサッカー殿堂入りのセレモニーが行われたマッシモ・モラッテイ氏は名誉会長という肩書きでインテルに残っています。岡目八目の6回目でも触れましたが、モラッテイ一族の財源が底をつき財政再建・チーム再建のため、リッチなアジア人が新オーナーになりました。チームの正式名称「インテルナツィオナーレ・ミラノ」の文字通りのチームになってしまいました。

好調を維持していたインテルがここ3試合ドローの結果に終わっていますが、この辺のチーム事情が選手の心理状態に少なからず影響を及ぼしていることも考えられますね。

2013.12.13
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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.9

              海外で活躍する日本人選手

 この夏の猛暑も何とか乗り切ることができました。
このコラムもしばらく空白期間ができてしまいましたが、また少し書いてみようと思います。

 近年では海外のクラブチームに所属する選手が飛躍的に増加しました。
ザック・ジャパンでも多くの試合で「海外組」が過半数を超え、主力となっています。
ドイツでは日本人同士の対決シーンも珍しくなくなりました。
1977年に奥寺康彦氏がプロ第1号としてドイツの1.FCケルンに入団した頃とは隔世の感があります。

 あるとき、ふと「どのくらいの日本人が海外でプレーしているのだろう?」と思い、頭の中で数えてみました。
長友・香川・本田・川嶋・長谷部・細貝・・・・と数えても、記憶の中では30人に届きませんでした。
サッカー好きの友人・知人に尋ねても、やはり20人前後しかわかりません。
しばらくは勝手に「そのくらいだろう」と決めつけていました。

 ところがある日、偶然にインターネットでそのものズバリのタイトルで
「日本国外のリーグに所属する日本人サッカー選手一覧」(Wikipedia)というHPを発見したのです。

頻繁に更新されているようですが、ここではヨーロッパの夏の移籍市場が終わって一段落した9月13日のデータでお話いたします。

開いてみて驚愕の事実を知りました。と同時に、自分の認識の甘さにも恥じ入りました。
「20人とか30人」とは桁が違いました。
19ページに渡り、現在所属している選手の名前がズラーッと並んでいます。暇に任せて数えてみると「246人」もいました。
内、女子が10人です。無知とは実に恐ろしいものです。

 エリア別に見るとアジアが最も多く、116人(女子は0)。
シンガポールは「アルビレックス新潟シンガポール」があるせいもあり25人もいます。
しかしタイにはもっと多い37人。オーストラリアに15人。インドに12人。ミャンマー、モンゴル、ウズベキスタンにまでいました。
驚くばかりです。

 次いで多いのがヨーロッパの109人(内、女子9人)です。
ドイツだけでも45人(内、女子6人)です。モンテネグロに7人、セルビアに2人、リトアニアにも1人。

 南米が意外に少なく7人(女子は0)です。
オセアニアには6人で、すべてニュージーランドです。
北中米にも8人いました。
アフリカは現在0ですが、過去にはウガンダ・カメルーン・ザンビアにいました。

 このデータを見て気づくことは、当然ながらほとんどの選手は無名であることです。
Jリーグにも入らず(入れず?)海外の無名のチームでプレーする選手が大半です。
海外で成功したのは、我々がよく耳にする極一部の選手だけのようです。

同HPで「過去に所属した選手」を見ると、かつてはJリーグや代表で活躍したにもかかわらず、
海外に出てダメになって帰国した選手の名も散見されます。

 選手それぞれに、色々な思いがあって海外に出るのでしょうが、大きなリスクも抱えているのですね。
海外でも評価されるのは難しいことですが、それだけに成功した選手達の偉大さもわかります。
これからも日本サッカーを世界中に広めてもらいたいものです。

 ※「日本国外のリーグに所属する日本人サッカー選手一覧」のURLを下記に付けます。

興味のある方、詳しく知りたい方はクリックしてご覧ください。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E5%A4%96%E3%81%AE%E3%83
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2013.9.21
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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.8


     異業種交流会のすゝめ

  ~サッカーの審判とラグビーの審判~

 最近では「異業種交流会」と言えば婚活のイベント、
昔風に言うなら「集団お見合い」のことを指すことが多いようです。

人生において婚活も重要だと思います。

以前は(今もあるのでしょうが)様々な業種の人達が集まり、
お互いに無いものを補完しあう有用性の高い情報交換の場でもありました。

例えば、同じ製造業でも現場での一品生産が主の建設業と、
工場での大量生産が基本の自動車・家電産業では
「生産の効率化」を考える時でも発想の原点・出発点は大きく異なります。

世界が変われば物の見方・アプローチの仕方・
発想も変わることに気づき難いものです。

どうしても自分のいる世界・業界の「常識」に囚われるからでしょう。

自分と異なる業種の人と会話することで、今までとは違う考え方やアイデアとかヒントを得られやすくなります。

 さて、昨年暮れのとある忘年会でのことです。

ラグビーに造詣の深いS氏と話していました。

面白いことに長友の話をしていても、
私は「サッカーの長友佑都」、S氏は「ラグビーの長友泰憲」について語ります。

途中でどうも話が噛み合わなくなり、
お互い違う長友のことについて論じていることに気づく始末でした。

 そんなS氏からとても興味深い発言がありました。

「サッカーとラグビーの審判は違う」というものです。

違う競技ですからレフェリングの方法も異なるのは当然ですが、
S氏の言う相違点はそうではなく「試合における審判のスタンスとか、
選手との関わり方」のようでした。

それまでさほど熱心にラグビーを見たことのない私にとっては、
何がどう違うのか判然としないまま帰宅しました。

 忘年会から数日後に始まった花園での高校選手権、トップリーグのプレイオフ、
日本選手権などラグビーの試合を10試合程テレビ観戦してみました。

なるほど、サッカーや野球の審判とは何かが違っていることに気づきます。

最初、解説者の声だと思っていたのは、
実は審判が選手に話しかけている声がテレビを通して聞こえていました。

ヘッド・セット・マイクはサッカーの大きな大会等でも使いますが、
あくまで審判間の連絡手段です。

大相撲やプロ野球でもトラブルがあった時、
審判長や責任審判員(主審)が場内マイクで説明するくらいです。

多くのスポーツでは、審判は身振り・手振りのゼスチャーだけで試合を進めています。

NFL等のアメフトの試合で審判が言葉とゼスチャーで「どちらに何の反則があり、
どのようなペナルティが課せられるか」を説明しているのが、多少類似性があるのでしょうか? 
それも英語だとこちらはよくわかりませんし、選手との会話までは聞こえていないようです。

まずここが素人でも判る大きな違いのように見えました。

 そこで『岡目八目-4 「なでしこ」の活躍と今後の課題』でもご協力頂き、
ラグビーのスタジアム観戦も数多くしている伊藤義人氏に再度ご協力いただくことにいたしました。

 氏によれば、ラグビーの主審の特徴的なところは

① 選手と一緒になって、積極的に試合を創っている

② 反則を取り締まるだけでなく、反則を犯さないように試合をリードしている

③ 負けているチームを奮い立たせる

ことのようです。

②については、サッカーの主審も選手を落ち着かせるような身振りをしているところを見かけます。

当協会の高田静夫氏の著書「できる男は空気が読める」や、
岡田正義氏の「ジャッジをくだす瞬間」の中でも、
興奮した選手を落ち着かせるため言葉をかけるなどの工夫をされていることが書かれています。

身体の接触がより多いラグビーでは益々重要な要素なのかもしれませんね。

 さらに、几帳面な伊藤氏がメモしたマイクを通した審判の言葉で、
ラグビーの審判のニュアンスが伝わってきます。

・フェアプレーで怪我の無い、いい試合をやろう

・スクラムをしっかり組む。落とすのはダメ。危険

・キャプテン、ラフプレーが多い。選手を落ち着かせて

・○○君、オフサイドの位置にいます。下がって

・××君、次にラフプレーをしたら退場にします

・タックルされたらボールを離せ、離せ

・レイトタックルは危ない。ダメだよ。よく見て

・△△大、まだ時間あるよ。この調子で点取れるよ

・あと1プレーやります。最後です

 審判の声がスタンドやテレビを通じて観客に聞こえてくるのは、
見る側にとっても判りやすく親切ではあります。

特にラグビーやアメフトのようにルールが複雑なうえ、
大勢の選手が密集して外から見にくいという特異性のあるスポーツでは有効だと考えられます。

観客を重視しているという観点からするととても良い手法ではないでしょうか。

傍から見ていても、審判と選手が何を話しているのか興味はあります。

そういう欲求も解決されます。

でも、国際試合などでは観客もバイリンガルにならないと通じないという難点もあります。

 特に高校選手権での審判から選手への呼びかけが多いように思えましたが、
ラグビーとサッカーの普及度の違いという背景も見逃せないのかもしれません。

最近ではサッカーは幼稚園児でもしっかりしたコーチの下で始めているケースは少なくありません。
ラグビーの開始年齢の多くは高校入学後の15歳のようです。

選手経歴の差、ルール理解度の差、体力の差などから
審判員の指示がより必要なのではないでしょうか?

 またラグビーではビデオ判定も取り入れています。

「テレビマッチ・オフィシャル」と呼ぶそうですが、
トライに関わるような重大な局面では
VTRを担当者に見させて意見を聞くそうです。

あの「伝統」の名のもとにガチガチに前近代的だった大相撲でも、
ずいぶん前からビデオ判定の導入をしています。

(余談ですが、大相撲の立行司は短刀を差しています。
ミスジャッジをした時に切腹する覚悟を表しているそうです。大相撲の文化なのでしょうね)

 ただVTR判定には大きなデメリットがあることも考えなくてはなりません。

VTR判定は当然ながら試合を中断することになります。

サッカーの大きな魅力である試合の連続性を損なってしまいます。難しい問題です。

しかし、八百長問題が世界的な広がりをみせているサッカー界でも、
判定の透明性を高めるためにこれらのことは一考の余地があるように思われます。

サッカーの試合では選手が審判に激しく抗議したり、
相手の反則を誇張するためことさら大袈裟に痛がり、転げ回るシーンをしばしば見かけます。

ラグビーでは(見た試合が少ないからかもしれませんが)そのような場面を見かけません。
ラグビーの選手はサッカーの選手より紳士的で、かつ審判をよりリスペクトしているのかと思いました。

ラグビーのルールでは審判に抗議したら即ペナルティ・キックを取られるそうです。

それでは言いたくても言えないですね。

前出の「できる男は空気が読める」の中に、『サッカーは大衆がする紳士のスポーツ、
ラグビーは紳士がする大衆のスポーツ』という言葉が紹介されています。

どちらも紳士であることが要求されているようです。

このように見てくると、サッカーとラグビーの違いは随分あります。

どちらが良いとか悪いとかではなく、それぞれの競技の特徴として見るとよいのではないでしょうか。

もう一つ余談ですが、皆さんの周りにも「自分の好き嫌いを、
そのまま世の中の善悪の判断基準」として考える人がいらっしゃるのではないですか? 

自分が嫌いなものは悪いことだと思い込んでいる人は結構いると思います。

一例として、クラシック音楽が好きな友人が「ロックや演歌は音楽ではない。
悪いものだ」と言っていたことがあります。

自分が嫌いでも、必ずしも世の中の悪とは言い切れません。

また、Jリーグが始まった頃(1993年)、「野球とサッカーのどちらが面白いか?」
という不毛の議論をずいぶん耳にしました。

好きか嫌いかは個人の好みの問題であり、面白さを比較対照したところで何も意味がありません。

どちらが優秀で面白いかなど絶対に決まることはないでしょう。

私の個人的な好みを言えば、やはり華麗な個人技が見られ、
チームの戦術が比較的明確なサッカーが好きだということです。

あくまで「好き」なのであり、「正しい」かどうかは判じかねます。

 話を「異業種交流会」に戻しますが、
スポーツ界においても異なる競技団体が垣根を越えて各々が抱えている問題点や
その解決策を論じ合い、共有することは意義深い事に思えます。

ある団体が行った問題解決が、他団体の問題解決のヒントになることは大いにありえます。

トップ・レベル、実務者レベルでそれぞれ気楽なサロンのような対話の場をもてるとよいのではないでしょうか?

いずれにしても、それぞれの競技をする選手や観客が、
よりそのスポーツを楽しめるようになることが最重要なことです。

2013.5.6
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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.7

    イタリアサッカー
(2) 文化としてのカルチョ

 

 最近、世界のサッカーのプレースタイルの差は縮まったと言われています。
確かに個人技とショートパスで攻める南米型、激しい当たりの欧州型という特徴的なスタイルはかつてほど明確ではなくなりました。
スペインのと言うかFCバルセロナのポゼッション・サッカーがグローバル・スタンダードになり、
世界中のサッカー・チームのお手本となっているせいでしょうか? 
高度な個人技とチームプレーを組み合わせたサッカーは、スペクタクルと呼ばれるに相応しく、
見るものには予想もつかない面白さがあります。それが世界に広まるのもいいのでしょう。

 

 それでもよく見ると、お国柄というのは残っているようです。
例えばイングランドのサッカーは個人のスピードより、ボールが一方のゴール前から反対側のゴール前に移動するスピードが早いところに魅力を感じます。
素人目にはカウンター(と言うよりキック&ラッシュ?)を多用しているように見えます。 
(マラドーナがイングランドに行かなかった理由もここにありそうです。同じ理由でメッシもイングランドに行くことはないでしょうね)

 

イタリアにも独特なサッカー文化があるように思われます。
私はイタリアのサッカーはとても知的な戦術が持ち味ではないかと考えています。
ルネサンスが興った国だからでしょうか・・・? 
今更言うまでもなく、ルネサンスとは「歴史的文化革命あるいは運動」でした。
底流に思想があり、思想が重要視されました。
同じ革命でもイギリスの産業革命とは少し質が違います。
イタリアという風土の中で、サッカーが独自の文化として育ってきたことを強く感じます。
サッカーに深みがあるというと大げさでしょうか?

もちろん試合をテレビ観戦しているときこのようなことは考えません。
部屋でボーッとしている時、ルネサンスとこの国のサッカー・スタイルとの関連性を感じることがあります。
前述のカルロ・アンチェロッティやアリゴ・サッキ、ファビオ・カペッロ、現在日本代表監督のアルベルト・ザッケローニなど、知将と言われる戦術家も目立ちます。

 1960年代にカテナチオという戦術が生まれたのもイタリアでした。
オーストリア人監督のカール・ラパンの「verrou」(ドアボルト)システムがその起源と言われますが、インテルが完成させたようです。
当時、私はまだカテナチオという言葉を知りませんでしたが、その頃から「スイーパー」と呼ばれる選手が日本でもいたことは知っています。
メキシコ五輪で銅メダルを獲った日本代表の鎌田光夫氏も、確かスイーパーだったと記憶しています。
今思えばこのスイーパーがカテナチオの要だったのですね。
元日本代表主将の宮本恒靖氏もG大阪ではスイーパーだったと思います。
本家イタリアではこのシステムは直ぐに消滅したようですが、日本ではごく最近まで採用するチームもありました。

 その後、「リベロ」と呼ばれる選手を出現させたのもイタリアでした。
ドイツのベッケンバウアーが有名だったのでドイツ生まれかと思いますが、「自由」を意味するイタリア語でしたね。

 最近では、アンチェロッティはミラン時代にクリスマスツリーと呼ばれる4-3-2-1で一世を風靡しました。
チェルシーに移ってからもしばしば採用していました。

賛否両論の3バックシステムも、イタリア人監督が好む戦術のように見受けられます。

 システム


 

 戦術ばかりでなく、スタジアムを含めた試合の雰囲気も独特ではないでしょうか? 
日本に比べヨーロッパや南米のサポーターははるかに熱狂的であり、ときに暴力的です。
イタリアに限らずヨーロッパでは選手同士、あるいはスタンドから言葉の暴力が飛び交うのは普通のようです。
2006年のドイツW杯のフランス対イタリアの決勝戦で、フランスのジダンがイタリアのマルコ・マテラッツィに頭突きをしたのは有名ですが、
この原因もマテラッツィがジダンの母親に対しての侮辱的・挑発的な発言でした。
イブラヒモビッチの自伝「俺はズラタン・イブラヒモビッチ」の中でも、相手選手やスタンドから自分や家族への侮辱的な発言が飛び交っていたことが記されています。

 今年の1月3日にACミラン対プロ・パトリア(4)の親善試合がありました。
プロ・パトリアの一部のサポーターから、ミランのボアテングやエマヌエルソン、ニアン、ムンタリへの人種差別的チャントが止まらず試合が中止になるという事件が起こりました。
イタリアでも初めてのことだそうです。
ミランのアッレグリ監督は「イタリアはもっと教養のある、もう少し賢い国にならなければならない」とコメントしています。
その通りだと思います。

これはイタリアを含むヨーロッパサッカーのネガティブな側面です。
テレビカメラがスタンドを映し出したとき、女性と子供の姿が非常に少ないように見えます。
日本に比べヨーロッパのサッカー観戦は危険を伴うからでしょうか? 命懸けなのかもしれませんね。

 

ミランとインテルのホームスタジアムであるサンシーロでは、毎試合、発煙筒と爆竹が鳴っています。
テレビでも試合の後半は煙でピッチが見難くなります。
最初の頃は霧が多い街なのかと考えていましたが、数多くの発炎筒から出る煙でした。
爆竹の音もドキッとするほど大きいですね。ピッチに投げ込まれて試合が中断することもありますが。
日本人としては、もう少し理性的に観戦してもらいたいと思ってしまいます。





  
2枚の写真は、ナポリのデッレ・アルビ競技場の模様(長坂会長提供)

イングランドのスタジアムは、ピッチとスタンドがとても近いように見受けられます。
選手がスローインやコーナーキックの時、助走も十分取れず窮屈そうに見えます。
日本ではゴールライン後ろにカメラマンが大勢カメラを構えていますが、イングランドではそのようなスペースも無いスタジアムが多いようです。
かと言ってスタンドにプロカメラマンらしき姿(大きな望遠レンズ)も見当たらないので不思議に思っています。
スタンドの最前列はピッチのレベル(高さ)のようです。
対してイタリアではピッチとスタンドは少し距離が置かれているのではないでしょうか? 
これは発炎筒をはじめ、物が投げ込まれたり、選手への危害が加えられることへの構造的な予防策のように見えますね。
イタリアのファンがヨーロッパの中でも一段と過激なことを物語っているように思えますが、たまたまなのでしょうか?

 

 

こうして見ると「紳士のスポーツ」と言われるサッカーは、多分に原始的な暴力性も内包しているのではないかと考えさせられます。
レフェリーは選手同士を裁くのみならず、暴力的なサポーターをもコントロールすることが求められているのかもしれません。
ヨーロッパで審判を務めることは想像以上に大変な仕事のような気がします。
現在では多くの日本人選手がヨーロッパで活躍しています。
日本の審判もヨーロッパのリーグで笛を吹く時代は来るでしょうか?

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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.6

     イタリアサッカー
(1)
カルチョの凋落

  私は高校生の頃からイタリアサッカー(カルチョ)に興味がありました。
 60歳を過ぎた今思うと、イタリアには独特なサッカー文化があったからのように思われます。
 しかし残念ながら、いまだに生のイタリアサッカーを見たことはありません。

1989(イタリアW杯の前年)8月にASローマの本拠地スタディオ・オリンピコ・ディ・ローマと、
SSCナポリの本拠地スタディオ・サン・パオロを外から見ただけというのが、最もカルチョに近づいた瞬間でした。
 8月はシーズンオフで試合はやっていませんでした。
それでもマッサーロやマラドーナがより身近に感じられたものです。
ですから今回のイタリアサッカーについても完璧過ぎる「岡目八目」です。

 

さて「カルチョの凋落」などと言うと、
昨年の6月から7月にかけて行われたEURO2012でブランデッリ監督の元、
脱カテナチオで準優勝したイタリアを見た方には奇異に聞こえるかもしれません。
 2010年の南アW杯で散々な結果に終わったイタリアが、復活の狼煙を上げたと思われましたから・・・。
 しかし、本当に復活できたのでしょうか? 
 準優勝とはいえ、決勝ではスペインに0-4と完敗だったのです。
 さらに1115日にはフレンドリーマッチながら、ホームで宿敵フランスに1-2で逆転負けしています。
 (その1ヶ月前の1013日には日本がフランスに1-0で歴史的勝利をしています)

 

カルチョの国の国内リーグ(セリエA)を見てみましょう。

 昔からセリエAは、リーガ・エスパニョーラ(スペイン)、プレミア・リーグ(旧フットボール・リーグ、イングランド)、ブンデス・リーガ(ドイツ)と共に「ヨーロッパ4大リーグ」と称されてきました。
 ユベントス、ACミラン、インテル・ミラノは世界的に見ても強豪と呼ばれるのにふさわしいチームでした。
 ASローマやSSCナポリ、SSラツィオが強かった時期もありました。
 これらのチームが優勝(スクデット)目指して激しく競り合っていたものです。 私もミランのファンの一人でした。
 たまにテレビで放映されるチェーザレ・マルディーニやフランコ・バレージのプレーに目を奪われたものでした。
 対戦相手も強かったので面白かったのでしょう。

 (フランコ・バレージの動画は嬉しいことに、インターネットの動画で今でも見られます。

  http://www.youtube.com/watch?v=T7KiBZ2fUWI )

 2007年、横浜国際総合競技場(日産スタジアム)でのクラブW(CWC)準決勝の浦和戦をスタンドで観戦しましたが、カカ、パオロ・マルディーニ、インザーギ、ピルロ・・・。
スター選手だらけで、それだけで家内共々興奮した記憶があります。
(口を開けて見ていたような気もいたします)

 

 それも昔話になってきました。
 昨季は辛うじて終盤までミランとユベントスがスクデットを競り合いました。
 それでもユベントスがなんと無敗のまま優勝してしまいました。

今季の開幕前の大方の予想でスクデットはユベントス、対抗馬は無しです。 結果はと言うと、ユベントスがモタモタしているにも関わらず、他チームがもっとモタモタしているので、121日現在ユベントスが首位です。
 全体のレベルが低下しているのではないでしょうか? 
 予想通りというのは、リーグの興味を削がれます。
 218弱と言われるリーガ・エスパニョーラでも、毎年最後まで2強が争っています。(今季はレアルが少々離されて3位にいますが・・・)

 

もう一つの事実があります。
 下の表は2012-13シーズンの各リーグに割り当てられた、チャンピオンズ・リーグ(CL)と、その下のヨーロッパ・リーグ(EL)への出場チーム数です。
 表を見ても判る通り、他の3リーグに水をあけられフランス、ポルトガルと横並びになっています。正にカルチョの凋落です。

国  名

リ ー グ 名

CL出場枠

EL出場枠

スペイン

リーガ・エスパニョーラ

  4

  2

ドイツ

ブンデス・リーガ

  4

  2

イングランド

プレミア・リーグ

  4

  1

イタリア

セリエA

  3

  2

フランス

リーグ・アン

  3

  2

ポルトガル

スーペル・リーガ

  3

  2

オランダ

エール・ディビジ

  2

  3

  

 










※ウディネーゼは
CLプレイオフで敗退しELに出場。
  CLにはユベントスとACミランの2チームのみ出場。

これは近年、イタリアのチームがCLELで結果を出していないことの現れです。
 どうしてこのような状況になってしまったのでしょうか?

 

カルチョ・スキャンダル(八百長問題)の影響もあるでしょうが、イタリアの経済危機が大きな要因のひとつではないかと考えられます。
 有力チームも右肩下がりで財政難に陥りました。

今季のセリエAのチームに所属する選手名を何人挙げられるでしょう? 
 10人の名前を挙げられるでしょうか 
 ビッグ・ネーム(≒高額年俸選手)が本当に少なくなってしまいました。
 昨年8月に入って、ミランはイブラヒモビッチとチアゴ・シウバを揃ってパリ・サンジェルマンに移籍させました。
 セードルフ、ネスタ、ガットゥーゾ等の高額なベテランも放出しました。
 さらに今年に入って1月のメルカート(移籍市場)でも、パトをコリンチャンスに移籍金1500万ユーロで手放しました。

ロビーニョもサントスへ売ろうとしましたが、移籍金で折り合いがつかず(ミランとしては不本意でしょうが)残留となりました。
 とにかく高給取りを抱えきれなくなっています。

 レアルで浮いているカカを呼び戻そうとしました。
 レアルは1800万ユーロを要求したそうで、直ぐに破談となりました。

ミランの実質的オーナーは、ご存知の通り前イタリア首相のシルヴィオ・ベルルスコーニです。
 かつては「メディア王」として潤沢な資産でロナウジーニョなどの「高い選手」を買い漁りました。
 しかし、もう財布の底をついてしまったようです。
 買う金も無ければ、年俸として払う金も無くなりました。

そのような状況の中、マンチェスター・シティからバロテッリを2000万ユーロの移籍金で獲得したのは少なからず驚きでした。

ミランのアッレグリ監督は1月13日のサンプドリアと00で引き分けた試合後、「若手が多く、マリーシア(ずる賢さ)がない。勝つのは難しい。経験が必要だ」と語っていますが、現在のセリエAの監督の苦悩を端的に表現しているように思えます。

 

インテルのマッシモ・モラッティ会長はサラス石油の重役ですが、インテルの運営はすべて個人資産を当てていました。
 それも限界が近づいてきました。
 今季が始まる前にマイコン(→マンC)GKのジュリオ・セザル(QPR=クイーンズ・パーク・レンジャーズFC)など高給取りを手放してしまいました。
 減俸に応じないスナイデルを昨年秋から試合に召集せず飼い殺しした挙句、この120日にトルコのガラタサライへ放出しました。
 これは見ようによってはひどい嫌がらせであり、俗に言うパワハラのような放出劇でしたね。

ラツィオのオーナー、クラウディオ・ロティートは清掃・警備会社の経営者ですが、そちらの会社自体が資金難で四苦八苦です。
 ユベントスのアンドレア・アニェッリは自動車のFIATの創業一族で、セリエAの中ではまだ財政的には余裕がありそうです。
 チームの財政事情がそのまま成績に反映されるようです。

 

 因みに他国ではどうかと見ると、最近急成長のイングランドのマンチェスター・シティはUAEの投資グループADUGがバックにいます。
 チェルシーのオーナーはロマン・アブラモヴィッチというロシアの石油王です。
 フランスのパリ・サンジェルマンにはカタールの王位継承者の所有する企業がついています。
 いずれも金に物を言わせて、高額な選手を集めています。
 良いか悪いかは別にして、これらのチームが確かに強くなっているのは事実です。

 一方FCバルセロナは一般市民などからの会員を募り、その会費でチームを運営するという方法を取っています。
 ですからバルサのユニフォームには伝統的にスポンサー名のロゴはありませんでした。
 2006年に逆にUNICEFに対してバルサが資金を支援することで、ユニフォームに初めて「UNICEF」のロゴが入りました。
(個人的にはこのような地域密着型経営が好ましく見えますが)

 

 もう一つの要因はベルルスコーニのようなサッカー音痴のオーナーが、現場に口を出しすぎるのではないかとも思えます。
 前述のロナウジーニョ移籍前後の裏話でこんなことを聞いたことがあります。
 当時のロナウジーニョはバルセロナに在籍していましたが、すでにピークは過ぎ、プレースタイルもミランで指揮を執っていたアンチェロッティ監督の戦術にフィットするものではありませんでした。
 しかしベルルスコーニはロナウジーニョの知名度と人気を「客寄せパンダ」として利用したかったようです。
 アンチェロッティ監督にもロナウジーニョを試合で使うことを強要していたそうです。
 名将と言われるアンチェロッティ監督もこれには嫌気がさし、自らはミランを退団してチェルシーに行ってしまいました。
 アンチェロッティはそのシーズンで、チェルシーのプレミアリーグ4年ぶりとなる優勝とFAカップの二冠を獲得しました。
(現在はパリ・サンジェルマンの監督をしています) 
 選手ばかりでなく、優秀な監督まで国外に出てしまっては、チームも強くなれないでしょう。

 

イタリア経済が復興し、金は出すが現場に口は出さないオーナーの出現により、カルチョのチームが、またスペインやイングランドのチームを抑えてCWCに出てくる日を心待ちにしているのは今では年老いた少数派だけなのでしょうか? 
 それでも、それを望まずにはいられません。

最後にACミランのガッリアーニCEO1月にミランの公式サイトで語った言葉を紹介します。

「ミランはイタリアとヨーロッパのフットボールにおいて、トップに戻るのに少々の時間を必要とする。しかし、私はミランが成功することを確信している」

2012.2.12
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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.5
 
           サッカー解説に思うこと

 

最近はサッカーのテレビ中継が多くなりました。
と言っても一昨年までよりはJリーグの中継だけ見ると半減したのですが、
海外の試合は随分見られるようになりました。
一時は「日本リーグ」の中継もほとんどされない時期もあり、
当時の読売対日産の黄金カードでもテレビ中継がないのは当然、
国立に足を運ぶ観客も2千人足らずという冬の時代もありました。
逆にどこに座って観るのも自由でしたが・・・。

東南アジアで行われたオリンピックでしたか
ワールドカップでしたか記憶は定かでありませんが、
アジア予選をラジオで放送したこともありました。
動きの止まる野球と違い、
動きの速いサッカーを実況することも至難の業だったと思います。
これは聴く側にとっても辛いもので、
どの辺りにボールがあり、どうプレーされているのか
さっぱり判りませんでした。
これだけテレビで中継される現在は、
サッカーファンにとってはありがたいご時世になりました。
放送席に座る解説者の他に「ピッチ解説者」なるものまで登場し、
より選手の近くで見た状況を伝えてくれることはとても助かります。

 

 テレビ中継が増えた一方で、
解説者の「質」に疑問や不満を感じることはございませんか? 
今回はテレビのサッカー解説者について
独断と偏見で考えてみたいと思います。

 

テレビ局としてはサッカー選手として、
又は指導者として知名度のあった人を使うのでしょうが、
それは必ずしも話術に長けていることとイコールではないことも
考えて欲しいものです。
皆さんもこんな解説に心当たりがあるのではないでしょうか?

ほとんど解説らしいことは喋らず、
アナウンサーの問にも「そうですねぇ~」くらいしかはなさず、
試合展開により「ワァッ!」とか「オォッ!」とか感嘆詞だけを発する人がいました。
この方は、今ではどの放送局からも使ってもらえません。
当然だと思います。

シュートを外すと「イヤァ~、今のは決めたかったですねぇ」、
ミスをすると「ウーン・・・。今のはネェ・・・」と
素人並みの感想しか言わない人もいます。
この方はセリエAのある試合を解説した時など
「ウーン、ウーン、ウーン」の三連発でした。ただの観客ですね。

日本がボールを奪うと「いいですよー」、
相手に奪われると「危ないですよー」。
そんなことは少しでもサッカーを知っていれば小学生でも判ることです。
百歩譲って、これらは初めてサッカーを見る人のための発言だったとしましょう。
でも90分このレベルのことしか言ってくれなかったら、
音声を消して画像だけ見ていたくならないでしょうか? 
幸いにもこの方が解説するときは、必ずと言っていいくらい
別のチャンネルでも放映されるので、
私は絶対に別のチャンネルの方を見ることにしています。

 こんな解説者もいます。試合を見ながら
「○○選手ならやってくれると思う」などと根拠のない期待を並べる。
この方は、なかなか専門的に話せないので「まあねぇ」「でも、なんか・・・」
「いやー、もうねぇ・・・」と、何とか多くの言葉を発しようとして、
どうでもよい無駄なつなぎの単語が多いのです。
これはとても聞き難いです。

 

これらの解説者はJリーグや代表の元監督でした。
これらの方々は監督業でも良い結果を出せなくて当然だったのでしょう。
多分、選手への指示もベンチから
「ワァッ!」とか「オォッ!」だったのでしょうから
・・・選手が判るわけがないです。

禅の言葉に「以心伝心」とか「不立文字」というのがありますが、
これらはお互いを知り尽くした上で成り立つ伝達手段だと思います。
選手同士のアイコンタクトなどはその良い事例ではないでしょうか。
しかし、監督は選手にどうプレーすべきかを
「明確な言葉」で伝える必要があるのではないでしょうか? 
同様に解説者もテレビを見ている視聴者との間に
アイコンタクトはありませんから、よく判る言葉で話してほしいものです。

  

 プロ野球の解説者は事前の下調べがよくできているように思えます。
シーズン前のキャンプ地の訪問から、試合前に選手の取材など、
多くの情報を準備して本番に臨んでいるのではないでしようか?

 サッカーでは試合前などに
監督や選手へ接触することが難しい規則でもあるのでしょうか? 
当日が無理でも、前日練習後の取材などは
可能ではないかと想像するのですが・・・。それも無理なのでしょうか? 
少なくとも解説する試合の両チームの直近の試合を、
VTRででもよいからチェックするとか。
どうもぶっつけ本番のように聞こえることが多いのです。

  

 もちろん、ダメな解説者ばかりではありません。
ごく少数(23)ですが、聞いていて「なるほど、そうだったのか! 
そうすればいいんだ! 」と納得できる解説をしてくれる方もいます。
目からウロコが落ちる解説です。

先日のテレビ中継では、その少数派の一人が
「バイタルエリアで本田がここに動いて相手のSBを中に絞らせることで、
左サイドにスペースができました。
そこに長友が走り込んでフリーになれました」と話しておりました。
素人としては、たまたま長友がフリーなスペースを見つけて
走ったのかと思ったのですが、
その前に本田の動きがあってスペースができていたのでした。
このような解説を聞くと、サッカーが大変よく判ってきます。
さすがにプロの解説者だと感動します。

「ここでディフェンスラインが下がり過ぎているから、
どこまで上げろ」とか・・・。中学生位の子供達が聞いても、
どういう動きが重要かを理解でき、自分のプレーに活かせるはずです。
日本サッカーの底辺のレベルアップにも大いに役立っていると思えます。
こういう解説を常に聞いていたいですね。
ただしこの方は残念なことに、硬過ぎて笑えることを言いません。
聞く方も緊張しっ放しで
試合終了と同時に疲労困憊になるという欠点もあります。
もう少しくだけた部分もあれば言うことなしです。

ほどほどに専門的で楽しくというバランス感覚が必要なのでしょう。
サッカーもエンターテインメントのひとつなのでしょうから・・・。
サッカーを楽しませ、さらにより深く理解させる解説を意識してもらえればよいのでしょうか。

 

 審判や指導者同様、解説者にも専門知識や話術のテストを行い、
1級国際とか2級国内などのライセンス制の導入を望みたいと思うのは
私だけなのでしょうか?

2013.2.5
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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.4

         「なでしこ」の活躍と今後の課題
日本では(多分、世界的な傾向なのでしょうが)様々な分野での女性の活躍が目立ちます。
サッカーの世界でも飛躍的に「女子」が大活躍です。
過日、「あきる野市ちびっ子サッカー大会」を見学しましたが、そこでも女子の方が男子より元気がよかった印象があります。
今や日本の女子サッカーは、男子より先に世界の強豪国の仲間入りをしたようにも思われます。
今回は「なでしこJAPAN」、「なでしこリーグ」とその2部リーグに当たる「なでしこチャレンジリーグ」、
さらには「関東大学女子サッカーリーグ」を執拗に(?)追い続けてきた、
伊藤義人氏に現在の日本の女子サッカーと、今後の課題について伺ってみました。

まずは伊藤氏について、少し紹介させていただきます。

伊藤氏は私と都立三鷹高校サッカー部三期生としての球友です。
長坂会長に3年間みっちりしごかれ、苦楽を共にしてきた戦友とも言えます。
私と違うのは、昔からとても真面目な性格で、同期の仲間内からもいつも信頼され頼りにされていた人物であることでしょう。
高校生の頃から昔気質で頑固な面があったことも、我々子供のような高校生から見ると頼もしく見えた要因だったようにも思われます。
共通点はお互いに今でもサッカーが大好きなこと。
意外に思われるかもしれませんが、二十数人いた同期の中でも、60歳を過ぎた現在もサッカーに熱中している仲間は残念ながらごく少数になってしまいました。
社会人になりお互い建設業界におりましたが、勤めた会社は違いました。
転勤等で一時疎遠になっておりましたが、定年後は「サッカーが持つ接着力」により再び交流が始まりました。
(これは素晴らしいことでした) 以下に取材した内容を要約してお知らせいたします。

昨年「なでしこJAPAN」はW杯ドイツ大会で宿敵アメリカを下し、念願の優勝を果しました。
さらに今年も「なでしこJAPAN」はロンドン・オリンピックで銀メダル、U-20W杯でも銅メダル、U-17W杯ではメダルこそ逃したもののベスト8と、世界に向けてこの1年は大躍進でした。
特に次を担うU-20で活躍できた意義は大きいと感じています。
しかし、アメリカやドイツとの力の差もハッキリしました。心・技・体の「心」で言えば、優勝したアメリカが一番勝ちたい意欲(ヤンキー魂)を見せ,ゲルマン魂・ヤマト魂を封じました。
日本チームにはレスリングの吉田沙保里選手のような強い気持ちが必要でした。
「技」に関して見ると、日本との差はないと思っていたドイツやアメリカの選手はボールが足元に吸い付いていました。
日本の選手との差を見せつけられました。「体」は皆さんも予想のままだと思いますが体力差は明白でした。
この差を埋めて3年後のW杯に臨んでもらいたいと考えます。
U-20で活躍した主力のうち、意外なことにINAC神戸レオネッサの選手は田中陽子一人でした。
(期待された京川舞が怪我で欠場) 他は日テレ・ベレーザと浦和レッズ・レディースの選手がほとんどです。
INAC神戸は「JAPAN」に多くの選手を出していますが、反面下部組織育ちの若手選手は少ないのです。
日テレと浦和の下部組織は充実しており、ハイレベルな中学生がゴロゴロしています。数年後には楽しみでもあります。
 関東女子サッカーリーグ戦 
一方、日本女子サッカーリーグ→Lリーグ→なでしこリーグと名称を変更しながら発展してきたはずの国内リーグを見ると、
ほとんどの選手を「なでしこJAPAN」で固めたINAC神戸の独走でした。
完全な神戸の一強時代で、11月に入ると消化試合になってしまいました。最終節でも2位の日テレ・ベレーザに4対0で圧勝し、負け無しの17勝1分け。勝ち点で2位に15も差をつけての2連覇でした。
プロ野球で言えば、V9時代の巨人と同じでリーグ戦の面白味に欠けます。来季から全試合有料になりそうですが、10対0の試合はダメですね。
リーグの将来にかかわる大きな問題が残りました。
INAC神戸では全員がプロ契約をし、昼間に練習をし、夜は休息をとりながらサッカーに専念できる環境にいます。
しかし他チームでは、プロ契約選手はほとんどおらず、昼間は生活のために一般人と同じように働き、夜だけサッカーの練習をするという選手が多いのが実情です。
この辺りに、日本女子サッカーが(W杯で優勝したにもかかわらず)相変わらず抱え続けている根源的な問題点があるのではないでしょうか?
残念ながら7位に終わってしまいましたが、伊賀FC「くノ一」では今季から選手全員が関連企業に就職し、16時から練習できるようになりました。このような「選手の環境の整備」への取り組みは急務です。景気が回復して企業がスポーツに資金を回せるようになることも重要な要素ではないでしょうか。

最後に、女子サッカーの審判について感じることを述べたいと思います。
審判は場数を踏んでいないと、試合をコントロールする判定は難しいものなのでしょうか?
チャレンジリーグや大学リーグでは女性審判の自信のない判定が、しばしば試合を混乱させているのが気になります。
なでしこリーグの審判員と比較しますと未熟さが原因のように見えます。
女子の試合は女性審判で行うという方針があるとのことですが、観戦する側から言えば当然ながら公式戦には質の高いレフェリングが求められます。
来期はチームや選手の動向ばかりでなく女性審判員にも目を向けて女子リーグを追って見たいと考えています。 関東女子サッカーリーグ戦レフェリーチーム       
※筆者追記
「仕事はお客様目線で」とよく言われます。
伊藤氏の最後の提言は、正に観戦者の目線での要求ではないでしょうか?
当事者には気づき難いこのようなご意見からは往々にして「ハッ」と気づかされるものがあります。

2012.12.07

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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.3

サッカー審判員 フェルティヒ氏の嘆き  

トーマス・ブルスィヒ著

 

これは、審判員から見たサッカー文明批評と考えられる珍しい本です。

この本は審判員のモノローグ風に書かれていて、「はじめに」も「目次」もなく、
3ページ目から108ページまで章も段落も無しに、
ただひたすら元ブンデスリーグ審判員のフェルティヒ氏が
巧みなレトリックと比喩を駆使して
独り言のように現代サッカーを批評し語り続けます。
文章に切れ目が無いので、読みだしたら一気に読むことになります。
したがって、暇な休日に読み始めることをお勧めいたします。

フェルティヒ氏の嘆き ← 「サッカー審判員フェルティヒ氏の嘆き」表紙

 

私がこの本を買うきっかけになったのは、
『スポーツ・グラフィックNumber』に出ていた紹介記事でした。
以前の私なら絶対に買わなかったと思いますが、
東京都サッカー審判協会の会員になって、
いつの間にか「審判」というワードが心の奥に刷り込まれていたからのようです。
「審判の嘆きってなんだろう?」と興味が湧き、早速、購入いたしました。

フェルティヒ氏は副業で保険代理店を経営する傍らブンデスリーグの審判員を務める人物です。
旧東ドイツの出身で、統一ドイツとなり東ドイツ時代よりは格段に収入は増えました。
しかし、一般の人からは「試合中だけ絶対的権力者」と見られること、
選手たちがオーバーアクションで審判を騙そうとすることなどなど、彼にも多くの悩みがあるようです。

 意外なのは冒頭の書き出しのところで「人間ゆえに、間違える」という諺を完全に否定しているところです。
普通ならこの諺を言い訳に使うところですが、
彼は「間違いこそが俺たちを人間らしくする、とでもいうのか」と喝破します。

私はフェルティヒ氏の嘆きとは何かに深い関心を持ちました。
それは単に、日常の会話の中で交わされる審判に対する批判や批難、審判報酬の多寡、
サッカー協会関係者への不満に対する嘆きではあるまいと考え、用心深くページを追いました。
そして、読むうちに、これが「フェルティヒ氏の嘆き」であるページに行き着くことが出来たのです。
私は彼の嘆きはこれに違いないと確信しました。

それは1980年ヨーロッパ選手権大会の出来事です。
この大会でサッカー小国ベルギーが並み居る強豪を次々に破り決勝戦に進んだのです。
その原動力となったのは、かつてない緻密で狡猾な「オフサイドトラップ」でした。
このオフサイド戦術は「相手を否応もなくオフサイドに追い込むという戦術の革命であった」と。
この戦術がその後全世界のサッカーチームがこぞって研究し採用することになったのです。
ここに相手選手を否応もなく反則に追い込むことにルールを利用するという考えが生まれたのです。
そして、「ルールは選手が守るものではなくなりルールは破るためにある」という
風潮に変わってしまったとします。
彼の言葉をそのまま引用すれば次のようになります。

あのベルギーチーム以来、ルールは試合に引きずり込まれ、
試合に押し込まれ、解釈し直され、利用され尽くされた。
サッカーではルールを「プレーする」ようになったのだ。
俺たち審判にとっては、いいことじゃなかった。
俺たちも試合の中へと引きずり込まれた。
スポーツの問題が演劇の問題になる。
ここで演じられるのは「あいつは反則した」そして「いや、やっていない」という芝居だ。
ここ10年間サッカーを見ていた人は俺が言っていることが分かるはずだ。
ピッチに登場する時点では、まだ、選手はクールな男らしいイメージを演じているが、
そのほんの数分後、そいつは最悪のインチキな人間になっているのだ。

冒頭にこの本はサッカー文明批評と書きましたのは、
今のサッカー競技中に絶え間なく起こる非文化的な現象、
罰しても、罰しても繰り返される反スポーツ的行為、
シミュレーションという審判を騙し利益を得ようとする行為は
何時の時代を境にして起こるようになったかを論じているからです。
これはサッカーの歴史上の転換点が存在していることを知らねばならないのです。

その反面、毎週、繰り返される様々な非文化的現象が
サッカーファンをいやが上にも興奮させ喜ばせるという皮肉な効果をもたらしているのだというのです。

全世界に広まった近代サッカーの起源は19世紀のイギリスのパブリックスクールにあります。
パブリックスクールがフットボールを教育に取り入れたのは生徒達の心身を鍛えると同時に
「規律を守る精神を育てる」という紳士教育のためにありました。
しかし、現在のサッカーは全くといっていいほどに変節してしまってはいないでしょうか。

「日本版へのあとがき」、「訳者あとがき」も含め、
サッカーの世界のみならず現代社会そのものに当てはまる問題提起のようにも読める一冊です。
もちろんドイツのサッカー界のこともよく見えてきます。

 

  今回の文章は長坂会長との共同執筆です。

2012.11.14

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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.2

  映画「レフェリー 知られざるサッカーの舞台裏」


私がこの映画の存在を知ったのは今年の6月の頃でした。
テレビのスポーツ専門チャンネルで夜中に放映されました。
それは2009年にベルギーで制作されたドキュメンタリー映画で、
内容はEURO2008でのレフェリー達の記録です。

試合中のレフェリー同士のやり取りはもちろん、
ミーティング中の会話が収録されており、
素人の私には大変興味深く、また衝撃的でもありました。

夜中に放映されたため、やむなく録画予約して翌朝見てみると、
なんと前の番組(メジャーリーグ)が延長になって、
肝心の残り17分が録画されていませんでした。
しかし、録画された部分だけを見ても実に見ごたえがありました。
俳優の演技ではなく、本物のレフェリーの実録ですから当然ですね。
どうしても残りの17分が見たくて(かなり悩んだ末)DVDを購入しました。
それは正解でした。

映画「レフェリー」

試合開始前の私には予想も出来ない緊張感に包まれた審判控え室の光景、
試合中の興奮状態が実にリアルに伝わってきます。
グループステージでは数多くのセットがいますが、
決勝トーナメントになると試合数も少なくなり、帰国させられる審判団。
レフェリーの世界もサバイバルなんですね。
誰でも決勝戦で笛を吹く栄誉に浴したいでしょうが、
皮肉にも自国が決勝戦に残れば、自分は帰国させられてしまいます。

誤審をした審判の心の葛藤は大きなテーマです。
審判には家族も含めた精神的葛藤があるのですね。
ある国の首相の「殺したい」発言で、レフェリーの家族にも危険が及びます。
サッカーは単なるスポーツではなく、社会現象であることを思い知らされます。

この映画の最後の場面は日本にもこのような環境があれば
審判は一層のやり甲斐感をもってピッチに立てるのではないかと痛感させられました。

 

もし、まだご覧になっていない方がおられましたら、
一見の価値は十二分にあり、是非是非お薦めしたい1本です。
世界遺産シリーズのDVDより感動すると思います。
我が家の女房も「サッカーを見る目が変わった」と言っております。
本当にその通りです。

2012.10.22

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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.1

 

私は審判の資格を持っていませんし審判の経験もありません。
ただサッカーが好きであることです。
そのような者ですが、審判資格がなくてもよいという東京都サッカー審判協会の
方針と活動理念に賛同し入会しました。
東京都サッカー審判協会の会員としては異端児なのかも知れません。
それだけに自由に発言も許されるかなと自分勝手に考えています。

 

私はサッカーの試合は比較的多く観てきたつもりですが、
特に審判に注目して見たことは、ごく最近までありませんでした。
今年の3月3日のゼロックススパーカップの柏レイソル対FC東京では、
初めて、ひたすら西村主審をカメラで追い続けてみました。
そして、試合が終わって初めて、
自分が応援していたFC東京が負けたことに気づいたのです。

 

実は、この試合の前座試合で高校選抜対JリーグU-18の試合があり、
その試合も主審に注目して見ていました。
つまり、この日には二人の審判を見たことで、
審判のレベルの違いがあるということを知ったのです。
それ以上に審判員のパフォーマンスの美しいことに感動しました。
特に、バックステップで移動するときは、
ディフェンダーよりも素早い動きをしているのではないかと感心したものです。

日頃のトレーニングも選手と同じように大変なのでしょうね。
この日を境に、審判に対するリスペクトの気持ちが強くなりました。
審判にクレームをつける選手を見る目が変わったのは、
革命的な心の変化でした。

2012.9.24
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